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9.エレクトロニクスアーキテクチャ論を作る

●エレキのアーキ論をつくろう

技術や製品のアーキテクチャという捉え方は重要である。設計も審査も知財化もアーキテクチャへの眼差しがあるからこそ可能になる。

さて、エンジニアの卵たる大切な人々、興味段階ではアーキテクチャの輪郭は間違いなく見えているはずだが、いざ勉強となると、いきなり細かい話が次から次へと出てきて当惑してしまうことはないだろうか。これは凡そ学術というものが物事の細部の正確な記述を目指す還元主義に基づくからである。そして、そのまま仕事に入ると、さまざまな還元主義ベースのツール例えばシミュレーターに没頭することで還元主義がさらに鍛えられ、いつのまにかアーキテクチャという階層を忘れてしまうのだ。

幸いにも(?)ツールを使い続けるといずれ飽きてくるので、相当数の人はいつかはそこから脱出して新しい地平に挑むことになるだろう。残念なのはこのタイミングは個人差、というより若い頃にアサインされた業務内容に強く依存することである。脱出が遅いと、アーキテクトを経ずに管理職を含む設計開発を支える業務を担当するようになったりする。そこで素晴らしいパフォーマンスを見せる人もいるだろうが、それは、みすみす優秀なアーキテクトを発掘できなかったことの証左ではないか?

こんな後悔をしないためにも、仕事に就く時には、ぜひ、その仕事が想定するアーキテクチャに思いを馳せてほしいし教えてあげて欲しいし、教えたい。

ところが、良い教材があるとも言えない現状がある。アーキテクチャは個別的なのでなかなか編みにくいのかもしれない。しかしながら、エレクトロニクスという分野の技術、製品にはほぼ必ず回路が含まれる。全体を回路図で書き切ったしまうことも珍しくはない。そこで、エレクトロニクスは回路でできている、と言い切って、回路のアーキテクチャというものにこだわった話を作ることを思うに至った。恣意的な目的設定や手段選択、独断に基づく評価など学術的には怪しい記述も含むため、「アーキテクチャ理論」ではなく「アーキテクチャ論」と命名する。

アーキテクチャとはどんなものか、という問いに対しては、ユニバーサルな定義は禅問答のようなものになりそうなので、まず、エレクトロニクス製品の仕様書を提示したい。全体の機能、性能に加えて、ブロック図と各部のポイントの解説で製品の成り立ちか示されているものがある。一律ではないが、LSIの仕様書に多い。これがアーキテクチャである。

●アーキテクチャは机上の空論か?

・中身ができてナンボという考え方があるが、中身ができても上位がだめならやっぱりだめ。

・上位を考えずに中身だけでもできた、というのは傲慢。それはだれかが上位を考えてくれていて、それを無意識に真似ただけ。無意識の真似なのでときにはポイント外すこともある。いつもそれでよいと思わないでくれ。

・「机上の空論」・・・Yesだろう。そして、これが「実論」になることを論理的に説明できればよい。

実物検証は「ほかに問題が残っていないこと」を確かめるためのもの。教えようとしているのは「実物が問題なく動作するための要素技術全部」ではなく、「この分野におけるアルアル」である。

●主張すべきこと

・既存のカリキュラムを簡略化するって言うだけじゃなくてそれに+ αしていることを明確に最初から主張する

・その+αとは、上位のアーキテクチャーの話、素子の非線形性等の非理想性の話、およびそれらの取り扱い方。これらは、教科書にはあまり書かれておらず、設計業務の中にうずもれてしまっている。これを掬いあげる。あたかもノイズの中から信号を拾い上げた気分でエレクトロニクスの理論を作る。

・同様に「干渉ノイズ」をアーキテクチャ段階で考慮する理論もできるはず。

●アーキテクチャ設計業務

・仕様決め(上位システムとのすり合わせはMust)
・アウトプットは基本設計資料

●アーキテクチャ階層でのデバイスの教え方

・Bipやって、次にMOSとかいうまだるっこしい教え方は時間がもったいない。
・デバイス群を俯瞰することができればよい
・Bip、JFET、MOSFET、MESFET、SIT、HEMT、IGBTぐらいまで断面を並べて見せる
 ・似ているところ  PN接合がある・・それって何か説明する
 ・異なるところ  異なることだけ言えばよい。あとは、発明経緯、特徴をシステム視点で語る。
・「このようにいろいろあるが、この講座ではMOSFETに絞る」と言う
 ・MOSFETでコンピュータのH/W(デジタル回路)を作っていること
 ・アナログ回路もほとんど一通りMOSFETで作れるようになっていること
 ・余談
  ・ディスプレイにもMOSFET、イメージセンサにもMOSFET
  ・MOSFET以外を使う例(BSアンテナのHEMT(回路システムへの入力端の例)、パワエレのIGBT(回路システムからの出力端の例))

 ・古典的とは言え現在も活躍中のディスクリート回路では、性能のよいBipトランジスタが入手しやすいこともあるし、Bip前提の標準ロジックICファミリがあったりするので、デバイスと回路の話をまとめて勉強するのがよい。オープンコレクタは知っておいたほうがよい(オープンドレインにそのまま使える)